
日中の診療が終わった後でも、急な体調変化に苦しむ動物たちはいます。夜間救急動物病院は、そんな「もしも」のときに頼れる場所。地域の医療インフラとして、動物とその飼い主に安心を届けることが私たちの使命です。
夜間救急は「応急処置」と「経過観察」に特化した医療です。ワクチンや予防医療は行わず、症例を一次病院へとスムーズに引き継ぐことを最優先に考えています。一見、派手さはないかもしれませんが、「今を救い、明日につなぐ」医療こそ、私たちの誇りです。
夜間の現場では、限られた時間とリソースの中で命に向き合う判断力が求められます。まるでスポーツのような緊張感と達成感のある環境です。一方で、その後の経過を見届けられない難しさもありますが、「命をつなぐ」責任の重みと意義は何にも代えがたいものです。

緊急で挿管を行った肺水腫の重症例では、日中の病院から二次病院へと引き継がれ、見事に回復しました。三者が連携して救えた命が、その後も幸せに生きている――その事実に深い達成感を覚えました。

最初は、将来的な開業を見据えて経験を積みたいという思いから夜間救急の現場に飛び込みました。想像以上に厳しい現場でしたが、飼い主からの感謝の言葉や、命を救えたときの充実感が、やりがいにつながりました。
開業時のメンバーは、私を含めて獣医師1名・動物看護師2名という最小体制。それでも年中無休で診療を行い、「地域に夜間医療を根づかせる」という想いで走り続けてきました。今では現場と運営の役割を分担し、持続可能な体制を築いています。

平均1日10件程度の来院に対して、獣医師・看護師ともに週40時間までのシフト制を採用。月の残業時間は平均5時間以下です。無理のない働き方を徹底し、「心身を壊してまで続けるべき仕事はない」という理念のもと、長く安心して働ける環境を整えています。
夜間救急では、高いスキルよりも「人として信頼される力」を重視します。限られた時間で飼い主と信頼関係を築くコミュニケーション能力、スタッフとの協力姿勢、そして柔らかな空気の中でもピリッと引き締めるメリハリが重要です。
地域の一次病院と連携しながら、夜間だけでなく多様な診療経験が積める研修体制を整えています。夜間救急を経験したことで、自身のキャリアや将来像が明確になったスタッフも少なくありません。
熊谷夜間救急動物病院では、周辺の一次病院と連携し「採用と育成のネットワーク」を構築。伊勢崎動物医療センターでも同様の取り組みを行っており、地域全体で若い獣医師・動物看護師の成長を支えています。
私たちが目指すのは、全国どこにいても夜間救急が選べる社会の実現です。自院を大きくするのではなく、若手が育つ仕組みを広げること。それが、動物医療の未来を支えると信じています。